37.カップルの街
ぽかぽかと暖かい柔らかな日差しを浴びながら眠っているわけではないのだか、思考の留まる心地よい時間を久しぶりに味わった。風に舞う花びらと道行く人をぼんやりと眺めている。若い男女の行き交う姿が目の前を通り過ぎていく。橋の上に立ち止まり道行く人にカメラのシャッターを押してもらっているカップルもいる。石に腰掛けて話し込んでいるカップルもいる。色鮮やかな浴衣の彼女にデジタルカメラのシャッターを押し続ける彼氏。遠くには土産物屋さんの店先で大きなぬいぐるみ相手にはしゃぐ二人。今しがた駐車場から上がってきたカップルは、少し落ち着いた感じの出で立ち、でも二人とも二十四五かな。待てよ・・。先ほどから見てきた観光客は、すべてカップル。二十代前半か下手をすれば十代の子供ばかり。ここは山の中の温泉街、今日は、出張先の東京じゃ無かったはず、目の前の風景は、我が町のモノじゃないか。とたんに頭脳が覚醒してきた。ここは、渋谷か原宿か・・数年前は、腰の曲がったお年寄りが主流のお客様だったところ、今目にしているのは若者のカップルばかり。いったい何が起こったのだろうか?若者の温泉ブームの一言でかたづける話じゃない様な気がする。テロに起因する海外旅行からの回避、若者の本物志向、等々思いつく、「千と千尋の・・」影響も・・。確かに近年地域の宣伝方法も変えてきた、いわばターゲットを絞ったと言えるが釣れた魚は、違っていた。世の景気対策の主眼は、貯蓄もたんまりある年金生活者だった筈。温泉旅行に魅力を感じるのは、高齢者の筈だった。こんな筈じゃなかったけれど「まあ良いか」。冬季のスキー場など年々集客が難しくなっているという。私の持論は、携帯電話等、ネットの「出会い系サイト」との競合にあると推察するモノ。・・では「温泉街と若者カップル」の関係は、いったい何なのだろう。将来への不安からの刹那感からだろうか、実は、若者こそ癒しを求めて漂っているような気がする。低迷する日本経済、雇用への不安、のしかかる高齢化社会。若者達にこれほど夢の無い時代が過去にあっただろうか。若者達に目標を見つけさせる事が困難な時代があっただろうか。彼らは青春のまっただ中にあって精一杯の思い出作りをしているような感じがする。窓の外では、また数組のカップルが通り過ぎていった。先ほどまで華やいで見えたカップル達の後ろ姿に何故か濃い影を感じてしまった。若者達よ、せめて今宵は愛する人と楽しい夢を見てほしい。